2009年10月02日
Eさんの置時計
夕暮れ時、携帯電話が鳴りました。
「みずきさん、大変大事なものが届きました。是非見に来てくだしゃい」
樋川に住む85歳のEさんからのお電話でした。
独り暮らしのEさんは、わたしが着くと、深々と頭を下げてお礼を言うのでした。
お話を聞くと、総理大臣さまから置時計が送られてきたとのこと。
確かにEさんのちゃぶ台の上には、木製の立派な置時計が。
一緒に添えられている、政府からの文書を見て思い出しました。
実は、以前にEさんの生活相談を受けているときに、
「旧軍人恩給欠格者(外地等勤務経験のある方)への特別慰労品」
についてという、役所からの封書を見つけました。
難しいことばかり書いてあって、Eさんは手続きをしていない様子でした。
わたしもよくわからなかったので、担当窓口に問い合わせると、
先の戦争で、軍人として外国での兵役があり、
何かしらの理由で、戦後、恩給を受けていない方々のために、
せめて慰労品という形で国から贈り物をしたい。
とのことでした。
そのときEさんからの相談は、生活保護の申請が主な相談だったのですが、
ついでだったので、この特別慰労品についても手続きをしたのでした。
そして半年以上が過ぎて、
本日晴れて、Eさんのお宅に総理大臣さまから、置時計が届いたのです。
ちゃぶ台の上で、カチコチと動く秒針の音も、なにかしらありがたく聞こえてきます。
Eさんは台所からコップを持って来て、
森永コーヒー牛乳をなみなみと注いでくれました。
ふたりで置時計を囲み、乾杯をしました。
Eさんは古い写真を持って来て、当時のことを語り始めました。
戦時中は食べるものもなくて大変だったこと。
だけど、徴兵されて中国のチントウというところに配置されたときには、
なぜか食糧もたくさんあり嬉しかったこと。
終戦を中国でむかえたとき、命からがら逃げたこと。
Eさんは当時のことをよく覚えていて、
何月何日に何があったと、その光景がいまでもありありと見えるようでした。
ときおり興奮して方言ばかりでしゃべるので、
なんども聞き直さなければいけなくて大変でした。
お話が上手なEさんは、戦火のなかでの武勇伝や、
仲間との体験談を面白おかしく話してくれました。
会話が途切れ、少しの沈黙が続きました。
Eさんは畳をじっと見つめながら、
「でもね、みずきさん。戦争はやってはいけないよ」とつぶやきました。
なんて言葉をかければいいのか。
沈黙のなかで、置時計の秒針だけが動き続けていました。

「特別慰労品」
「みずきさん、大変大事なものが届きました。是非見に来てくだしゃい」
樋川に住む85歳のEさんからのお電話でした。
独り暮らしのEさんは、わたしが着くと、深々と頭を下げてお礼を言うのでした。
お話を聞くと、総理大臣さまから置時計が送られてきたとのこと。
確かにEさんのちゃぶ台の上には、木製の立派な置時計が。
一緒に添えられている、政府からの文書を見て思い出しました。
実は、以前にEさんの生活相談を受けているときに、
「旧軍人恩給欠格者(外地等勤務経験のある方)への特別慰労品」
についてという、役所からの封書を見つけました。
難しいことばかり書いてあって、Eさんは手続きをしていない様子でした。
わたしもよくわからなかったので、担当窓口に問い合わせると、
先の戦争で、軍人として外国での兵役があり、
何かしらの理由で、戦後、恩給を受けていない方々のために、
せめて慰労品という形で国から贈り物をしたい。
とのことでした。
そのときEさんからの相談は、生活保護の申請が主な相談だったのですが、
ついでだったので、この特別慰労品についても手続きをしたのでした。
そして半年以上が過ぎて、
本日晴れて、Eさんのお宅に総理大臣さまから、置時計が届いたのです。
ちゃぶ台の上で、カチコチと動く秒針の音も、なにかしらありがたく聞こえてきます。
Eさんは台所からコップを持って来て、
森永コーヒー牛乳をなみなみと注いでくれました。
ふたりで置時計を囲み、乾杯をしました。
Eさんは古い写真を持って来て、当時のことを語り始めました。
戦時中は食べるものもなくて大変だったこと。
だけど、徴兵されて中国のチントウというところに配置されたときには、
なぜか食糧もたくさんあり嬉しかったこと。
終戦を中国でむかえたとき、命からがら逃げたこと。
Eさんは当時のことをよく覚えていて、
何月何日に何があったと、その光景がいまでもありありと見えるようでした。
ときおり興奮して方言ばかりでしゃべるので、
なんども聞き直さなければいけなくて大変でした。
お話が上手なEさんは、戦火のなかでの武勇伝や、
仲間との体験談を面白おかしく話してくれました。
会話が途切れ、少しの沈黙が続きました。
Eさんは畳をじっと見つめながら、
「でもね、みずきさん。戦争はやってはいけないよ」とつぶやきました。
なんて言葉をかければいいのか。
沈黙のなかで、置時計の秒針だけが動き続けていました。
「特別慰労品」
Posted by 比嘉みずき at 23:49
│平和