太栄食堂の思い出

比嘉みずき

2011年07月14日 12:56

真っ青な空に
入道雲が山脈のように広がっています。

先月末、沖縄タイムスの記事に、
「人情の味 歴史に幕」という見出しで、
那覇市の太平通りにある、
太栄食堂が閉店することを伝えていました。

親子2代にわたって庶民から愛され続けてきた、
創業58年の歴史に幕を閉じるという。

実はその太栄食堂で、
わたしはアルバイトをしていたことがあります。
高校2年生の夏のことでした。

那覇高校に通っていたわたしは、
修学旅行のお小遣いを貯めるために、
ショーウインドウに「急募!」と書かれていた、
太栄食堂のドアを開けたのでした。

学校が終わってからの数時間のバイトでしたが、
店長をはじめ、家族のみなさんや従業員のおばちゃん達に、
本当に可愛がられて働きました。

あれから20年近くが経ち、
わたしも社会人となり、いまは政治の道を歩んでいる。
いつも近くを通るのに、
きちんとご挨拶に行けていないことを、
ずっと気に病んでいました。

そのお店が閉店するのだ。

「よし!店長に怒られてもいい。
 あのときの感謝の想いだけでも伝えに行こう!」

懐かしいお店のドアをくぐり、店長を探した。
注文でごった返している厨房から店長が出てきた。
「お~我が息子よ!よく来てくれた!」

20年近くも前のことだし、
わたしのことなんて憶えていないかも知れないと、
思っていただけに、涙がこぼれそうになりました。

店の奥からも、
おかみさんや従業員のおばちゃんも出てきて、
再会を喜んでくれました。

バイトに来たものの、
わたしが風邪を引いていたので、
おかみさんは心配し、
カレーライスを食べさせ、薬を飲ませてくれたこと。
そしてそのまま、お店の奥で眠らせて、
結局その日は働きもせずに帰してくれたこと。

修学旅行に出発するときに、
お店のみなさんからといって
「餞別袋」を頂いたこと。

温かい思い出に、感謝の気持ちを伝えました。

店長も当時のことを懐かしみながら、
これまで地元のお客さんに愛され、
食堂を続けられてきたことに感謝していました。

「何事もね。『~している間に』というのが良いんだよ。
 お客さんに愛されている間に、終わることができて幸せだよ」

調理衣と同じくらい、店長の髪も白くなっていました。

翌日が閉店日なのですが、
その日も、常連客のみなさんが、ひっきりなしに訪れていました。

おじいちゃんは孫を連れ、
お母さんは買い物袋をたくさん持って。

商店街から懐かしい味がなくなることを、
みんなが惜しんでいました。
一人ひとりのお客さんに、
お礼を言っている店長は本当に幸せそうでした。

「みずき!君に手伝って欲しいくらいだよ!」
店長は笑いながら、
入道雲のようなぜんざいを作ってくれました。




            榮店長をはじめ、太榮食堂のみなさん。永い間、おつかれさまでした!

関連記事